管理人の戯れ言(3)
闘わないミュージシャンは嫌いだ!新聞の片隅においたままで見過ごしにできない記事があった。3月25日の各紙に掲載された「『独自の編曲は権利侵害』指摘でCD出荷停止」(読売新聞)という記事。 「PE'Z」というジャズ・インスト・バンドが出したアルバムに収録された自分の曲が、「勝手に編曲して演奏しているのはケシカラン!」と、裁判所にCD販売の差し止め請求をしたゲージツ家のセンセイがいるのだ。 コトの次第はこうである。ジャズバンドPE'Z(なんとデビューアルバムは10万枚のヒットだそーな)がシングルとセカンドアルバムで「大地讃頌(さんしょう)」という曲を演奏した。この曲は佐藤眞東京芸術大教授の作品「混声合唱と管弦楽のためのカンタータ『土の歌』」の第7楽章で、合唱曲としてよく演奏されているそうだ。ジャズ・インスト・バンドというから、当然合唱曲とは異なる演奏になる。これに佐藤センセー、カチンときたわけです。 「作曲者には作品を勝手に改変されない権利がある」と、編曲権及び同一性保持権を侵害しているとして販売停止の仮処分を東京地裁に申請しちゃったわけです。 PE'Zのアルバムの発売元である東芝EMIは、ちゃんとJASRACにも申請したし、アレンジは演奏の自由の範疇でしょ、と主張しようとしたそうなんですが、PE'Zの皆さんが「(佐藤先生に)不愉快な気持ちを与えてしまった」とあっさりと謝っちゃったワケです。(以上、朝日新聞、読売新聞記事およびPE'Zの公式サイトを参照して筆者がアレンジ) ♪ ♪ ♪
これ、じつに由々しきモンダイであると思いませんか?週刊文春の出版差し止め以上に、重大事件であるとワタクシは思うわけです。 ここには、二つのモンダイが顔を出しております。 ひとつは、佐藤眞東京芸術大学教授が訴えの根拠とした、作曲家が保持しているという「編曲権及び同一性保持権」ですね。 編曲権侵害は、PE'Zがアレンジした『大地讃頌』は、本来の『大地讃頌』そのものの演奏ではなく、勝手に編曲を加えたのがケシカランという佐藤眞東京芸術大学教授の主張で、同一性保持権侵害は、ワタシには作品を勝手に改変されない権利があるという、これも佐藤眞東京芸術大学教授の主張なわけです。 そんなことを言われた日には、ある曲をジャズにアレンジして演奏しちゃうというアタリマエのことができなくなります。ましてやある曲のコード進行を使って別の曲を演奏するなんて、モッテノホカになるわけですね。 どうです、これって大問題でしょう? もし、佐藤眞東京芸術大学教授が主張する編曲権や同一性保持権なんてものが認められると、厳密に解釈すればジャズはおろか殆どの演奏が成立できなくなる。まぁ、こんな戯けたことを主張なさっているのは今のところ佐藤眞東京芸術大学教授だけのようであり、こころの広い多くの作曲家さんたちは「どーぞどーぞ」と許してくださっているから、今現在、さまざまな音楽が演奏されている、というわけですね。 もちろんワタクシ、作曲権や作詞権、編曲権がケシカランと言っているわけではありません。どのような創作物に対しても、作者に対しては敬意をいだきますし、それを使用させていただくにあたっては「高ぇなぁ…」と思いつつも権利に対しての使用料は、実際にいままでの数少ない機会のすべてで、きちんとJASRACさんを通じてお支払いさせていただいております。 中学・高校と6年間コーラス部に所属しておりましたカンケイで佐藤眞東京芸術大学教授のお名前も存じ上げておりますし、コンクールなどで作品を歌わせていただいたときには、旋律の美しさ、和声の巧みさに、おおいなる感銘も受けたわけです。 だからこそ、何で佐藤眞東京芸術大学教授が、すべての芸術の創造性を摘みとってしまうような戯けたことを主張なさるのかと、いささか呆れ、おおいに失望した次第なわけです。 今回は東芝EMIがすぐに出荷停止を決断したため、お上の沙汰として「編曲権の侵害」に関する判断は出なかったけれど、これがもし週刊文春のように仮処分決定なんか下されてしまうと、それが前例となってえらいことになるところだった、と思うわけです。 ♪ ♪ ♪
ということで東芝EMIとPE'Z側が引き下がったわけですが、モンダイの第二は、簡単に引き下がってしまったPE'Zの皆さん。彼らに対しては、佐藤眞東京芸術大学教授のタワゴト以上にモンクを言いたい。公式サイトに掲載されたリーダーのお言葉によりますと 私が『大地讃頌』に初めて出会ったのは中学校1年生の合唱コンクールでした。「な んて壮大な曲だろう」と感動した覚えがあります。PE'Zのファンの皆や、私と同じ思い入れがある人たち、またこの曲を聞いたことのない人たちも含め、一人でも多くの人たちに聞いてほしいという思いで録音し、ライブで演奏してきました。はずなのに、何であっさりと引き下がっちゃうのよ! ということですね。ジャズ・インスト・バンドを標榜するのなら、ジャズがどのようにしていままで演奏されてきたか、いまどのようにさまざまな曲が夜ごと日ごとに演奏されているか、わからないはずがないじゃないですか。 そんなジャズの存立にかかわる大問題なのに、あっさりと 我々PE'Zが佐藤先生の作曲された楽曲をカバーしたことにより、不愉快な気持ちを与えてしまったことに関して謝罪したいと思います。なんて、キミらはいったい何考えてんの? 闘わなきゃ、ジャズマンなら。と、非常に歯がゆく思うわけです。 しかし、我々が中途半端な気持ちでこの曲をカバーしたのではない、我々が感じた感動を胸に抱き、世の中に伝えていきたい思いがあったこと、どうかそれだけは感じていただきたい、というのが我々の本音です。なんて未練がましいことを言うのなら、もっとジャズの何たるかを主張したらんかい、ワレェ! と、思わず関西なヒトになって悪態のひとつもつきたくなってしまうのですよ。 PE'Zの諸君よ。キミのトランペットの背後には幾多のトランペットプレーヤーの、キミのドラムの横には数多のドラマーが連なって、自分が惚れた曲に全身で愛を注ぎ込んでジャズを演奏しているいることを、どうか忘れないでくれたまえ。 ♪ ♪ ♪
…とまぁ「これだから日本はいつまでたっても五流の後進国なんだよぉ!」という、ヤスケン的悪態が、今回の結論ということでしょうか。PE'Zの公式サイト:http://www.worldapart.co.jp/pez/ |