管理人の戯れ言(4)
だからクズ雑誌なのだ!

8月末の土曜日、浅草ROXにある新星堂を覗いた。ジャズコーナーには、「ジャズ聴くべ♪」のPOPとともに、映画「スウィングガールズ」のサウンドトラックCDが大量に面展示されていた。そしてその隣に、ブルーノートの1500円シリーズ。それだけでジャズコーナーの3分の2を占めてしまっている。なるほど。映画見たアト「ジャズ、聴いてみるか。でも何買えばいいのかね…」というお客さんにはわかりやすい店頭演出です。ジャズ専門でもなんでもないCD店にしては、けっこう頑張っていると思う。スタッフの「ジャズ売りたい♪」という気持ちがよくわかる。
9月に封切りされる「スウィングガールズ」は、高校の男の子たちがシンクロナイズドスイミングをやっちゃう映画「ウォーターボーイズ」を撮った矢口史晴監督が、今度は落ちこぼれの女子高生たちがジャズの魅力に触れ、自分たちでビッグバンドを結成して、リッパに演奏できるようになるまでを描いた青春映画。オーディションで集められた出演者たちが、5ヶ月の特訓を経て吹き替えなしで「Take the A Train」や「Moonlight Serenade」を演奏している。つまり、映画のストーリーと並行して、それまで楽器なんか触ったこともなかった彼女たちが、現実の世界でもジャズやれるようになったわけですね。
実際、彼女たちのバンド「スウィングガールズ」は、映画のプロモーションとしていまもあちこちで演奏を披露している。じつに愉快な話ではないですか。で、浅草ROXの新星堂に大量展示されていたCDは、その彼女たちの演奏が納められたサウンドトラックなわけです。
ワタクシはその映画はまだ見ていないけれど、サウンドトラックを聴いた限りでは、彼女たちがジャズを少しずつ自分のモノにしていくさまがほのぼのと描かれているようで「そうかそうか、おぢさんは応援しているけんね」という気持ちになって、にこにこしてしまった。たぶんこの映画、封切られたらすぐに見に行くと思う。
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ところで、ジャズジャーナリズムという世界(そんなものがあるとして)にいらっしゃる皆さんは、なぜかほとんどがこの楽しそうな映画を無視されているようなのだ。スイングジャーナルの8月号や9月号には、このサウンドトラックCDの紹介はどこにも出ていないし、試写会をご覧になって、さらには「スウィングガールズ」の生演奏も聴いていると思うのだが、そんな記事はかけらも見つけられなかった(見落としていたらごめんなさいです)。
ワタクシが知る限りでは、杉田宏樹サンがPCMの番組で紹介していたようなのと、岩浪洋三サンがジャズ批評9月号の「ジャズ日記」で書いているのを見たぐらいで、ほんと見事に今のところ、ジャズジャーナリズムはこの映画には無関心のようであります。

これって、ちょっとヤバいんでないかい?。
もしかしたら編集部の皆さんは試写会で映画を見て「くだらん」という判断を下したのかもしれないし、記者発表での彼女たちの演奏を聴いて「下手ヘタへた、しょーもない」と思われたのかもしれません。で、ジャズジャーナリズムの王道を行く雑誌としては、そんなものに誌面を割くくらいなら、リーモーガンやハービーハンコックの超名盤を特集する方が、わが国のジャズの発展のためにはずっとずっと意義深いことなのだよ、キミはそんなこともわからんのかぁ! と手のひらをひらひらさせながら「忙しいから帰った帰った」とおっしゃるかもしれません。

だからアンタらはクズなんですよ。

スイングジャーナル9月号の新譜レビューには、サッチモも出演した映画「五つの銅貨」のサウンドトラック盤が紹介されている。この映画、ワタクシも大好きでそのサントラがCDで発売されるのは非常にウレシイし、新譜発売の情報としてありがたいのだけれど、だったらなぜ同じジャズ映画のサウンドトラックである「スウィングガールズ」を紹介しないのでしょうかね。やっぱり「くだらん」「しょーもない」「演奏がヘタ」だからですか?
岩浪サンはストーリーをきちんと紹介し「楽しい映画」だとオススメの上で彼女たちの演奏にも言及している。わずか5ヶ月でここまで吹けるようになったこともきちんと認めた上で「一生懸命なのはいいが、アドリブはまだまだ」と、対象に向かって真摯な評を記しておられる。
それと同じではないのでしょうかね。新譜レビューにはジャズおじさんのキャラクターがバンザイしたりガックリしたりで5段階の評価を表しているが、もし「スウィングガールズ」のサントラが、しょーもないとるに値しないモノと判断したのなら、その最低点である「貧弱」マークをつけてでも取り上げて、そこで酷評すればいいではないですか。
そういえば最近の新譜レビューでは、この「貧弱」はおろか、その上の「平凡」マークもほとんど見かけませんね。もうみんな「最優秀」や「優秀」の名盤ばっかり。
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メグのイベント「岩浪洋三ジャズ評論家養成講座」で、スイングジャーナルは是か非かという大激論になった。本来は「もっと若手の評論家が誌面に登場してくるべき」という議論だったはずが、いつの間にか「広告が載ったCDはレビューで激賞している、だからあの評文は信用できない」というものに変わっていた。
実際、ワタクシの友人たち何人かがマイナーレーベルからCDを出しており、いつも後の方の「その他大勢」のところで紹介されたりしている。ところが昨年、デビューCDを出したヴォーカリストは、いきなり前の方で1ページを費やして激賞されていた。「おお、やったねEちゃん♪」と、さっそくHMVでCD買って聴いてみたら、これがイマイチ。何かコンセプトが空回りしているようでよろしくない。で、もう一度スイングジャーナルを見ると、マイナーレーベルにもかかわらずグラビアにしっかりと広告が出ておりました。
しかしまー、広告出稿とレビューが連動していたとしても、ワタクシは否定するつもりはありません。だいたいが「日本にマトモなジャーナリズムが育たないのに、ジャズジャーナリズムなんてあるわけがない」というふうに、すぐに極論してしまう方ですから。だから、ジャズ業界誌と思いつつもスイングジャーナルはずっと買い続けている。で、最初に見るのは新譜レビュー。いまや広告掲載の最優秀や優秀盤のオンパレードであるということを念頭に置きつつ、新譜の発売情報を俯瞰できるものはこれだけだからというのがその理由だ。扉ページに「New Release Complete Review」と掲げてあるのはいまさらどうかとも思うが、このページの存在意義は十分に認めているつもりだ。
でもねぇ、ジャズ業界にばかり顔を向けていないで、もっと広くジャズファンの方を見る必要があるのではないですか、と言いたいわけです。そしてそれこそが、ジャズジャーナリズムが本来辿るべき道ではないですかということを申し上げたい。
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「スウィングガールズ」の公式サイトのBBS(掲示板)には、全国の中学校や高校のブラスバンド部員たちが、さまざまなメッセージを寄せている。その中には「クラリネットやってます。でも、クラリネットのジャズって、あるのでしょうか?」とか、「フルートのジャズって、やっぱりないよね」など「ジャズやりたいけど私の楽器じゃ無理?」という声もある。そんな彼ら彼女たちの声なんて、ジャズジャーナリズムに身を置く皆さんにまでは、きっと届いていないのでしょうね。彼ら彼女たちはこの先、あなた方の雑誌の読者になるはずなのに。
寺島サンへの迷惑も顧みず、そしていちジャズファンの読者としての愛情を込めて、あえてもう一度罵らせていただく。
ジャーナリズムとして市井のジャズの動向に目を向けようともしないなんて、だからアンタらはクズ雑誌なんだよ

スウィングガールズの公式サイト:http://www.swinggirls.jp/
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